「エコモマイリコ」でフラダンスを仲間たちと楽しむ
南国の陽気なメロディーにのせて、ステージでしなやかな踊りを披露する手話フラダンスサークル「エコモマイリコ」のメンバー。鮮やかな衣装と彼女たちの笑顔に、会場がパッと花で彩られたように明るい空気に包まれた。
横須賀市の総合福祉会館で3年ぶりに行われた障がい者団体の発表会「あったかハート交流会」。大勢の観客を前に4曲を披露し、興奮冷めあらぬ様子で控え室に戻ってきたメンバーに感想を聞くと、「緊張で震えました」「この数年家にいることが多かったので、みんなの前で踊れて楽しかった」と手話で伝えてくれた。
ハワイ語で“ようこそ”と“新芽”を意味する「エコモマイリコ」は、代表のまついみえこさんが6年前に立ち上げ、現在中学生から60代まで20人ほどが参加するエコモマイフラスタジオだ。その多くは聴覚に障がいがある方で、手話を用いて会話をしている。踊りが上達することはもちろんだが、活動で一番大切にしているのは“みんなの居場所”づくり。「みんな娘と友達みたいに接してくれて、仲間に恵まれてます」。耳が聞こえない中学1年生の娘さんと親子で参加する小川さんにとっても何でも話せる仲間たちの存在が心の拠り所となっている。
できそうもないことをクリアする 踊る彼女たちが希望の星
フラダンスにはハンドモーションといって、自然の美しさや人の心を表す手の動きがある。その中でも「風」「雨」「花」などは手話でも似た動きをする。「聞こえない人の手話の魅力は手を動かしているだけなのに、映像が見えてくるんですよ。例えば“車が走る”という手話は、その人がどんなスピードで、どんな景色を見ながら走っているかがわかってしまう。手話の表現の豊かさを味わいながら、みんなとフラをやっていきたい」とまついさんは言う。
とはいえ、耳が聞こえない人にフラダンスを教えるというのは初めての試みで想像以上に難しかった。音楽が聞こえないので音に合わせて踊ることができず、最初は手拍子をとったり、メトロノームを使ってみたり、いろんな方法を試したがうまくいかない。そんな時、準備運動でラジオ体操をしたらみんなの動きがピタリと合った。小さい頃から100回以上やってきて、動きが身体に染み込んでいる。それならフラダンスも同じようにたくさん練習すればいいんだ、と練習量を増やすことにした。
コロナの影響でなかなか気軽に会える機会は減ってしまった。マスクだらけの街で人の表情は読みとりづらく、コミュニケーションも希薄になった。メンバーにも寂しい思いをしている人は多かった。まついさんは会えない期間もオンラインでみんなと密に連絡を取り合い、指導を続けた。今回の発表では日頃の練習の成果が花咲いた。
まついさんは手話フラダンス講師のほかに、もう一つ手話通訳士という肩書きをもつ。病院や学校などで耳が聞こえない人たちに付き添って、手話がわからない人との架け橋をする。その活動で感じるのは、日本語の曖昧さや耳が聞こえない人に対する理解のなさだった。
フラダンスを楽しそうに踊る彼女たちは「希望の星」とまついさんは言う。聞こえない人が音に合わせて踊っている。できそうもないことをクリアしている。それはやりたいことを諦めなくても大丈夫というメッセージでもあるし、障がいを持っていて可哀想だから何かやってあげようというのではなく、できることをお互いやっていこう、と思うきっかけになったらと言う。まついさんの密かな夢は、自分が教えた生徒たちが今度は先生になってフラダンスを教えることだ。
手話フラダンス講師と手話通訳士他、7つの仕事をしながら、まついさんは聞こえない人への理解を広げる活動に今日も奔走する。
〇エコモマイリコ
神奈川県横須賀市を拠点に活動する手話フラダンスサークル。サークルの代表まついみえこさんは、同サークルでフラダンスの講師もつとめる。年に数回、首都圏のダンスフェスティバルやコンペなどに参加し、練習の成果を披露している。
文・清土奈々子
写真・長谷川健太郎