精神障害を考える演劇ワークショップ・プロジェクト『IKIZAMAミュージックぱーてぃー』稽古場レポート

2025/02/28

取材・文:福井尚子 撮影:橋本貴雄

2025年4月から休館となる神奈川県民ホール。3月中は「ありがとう神奈川県民ホール」と題してさまざまなイベントが開催されます。共生共創事業も、〈共生共創フェスティバル〉と題して、公演、展示やワークショップなどの企画を開催。その中のひとつとして、精神障害を考える演劇ワークショップ・プロジェクト『IKIZAMAミュージックぱーてぃー』が2025年3月9日(日)に上演されます。

本企画を行うのは、精神疾患をかかえる人たちの声や表現を発信する活動グループ「OUTBACKプロジェクト」と、演出家・多田淳之介、音楽家・西井夕紀子。これまで、2つの精神科病院を訪ね、入院患者のみなさんと「大切にしてきた歌/音楽」を交換するワークショップを重ねてきました。現在舞台に向けて、病院でのワークショップを通じて感じたことや自身の経験を持ち寄りながら、公演を創作しています。

稽古場を訪れた2月初旬は、プロジェクト・メンバーによる創作稽古日。全体の構成を確認し、みなさんが作ってきた歌詞や音楽を持ち寄る日でした。今回は稽古場の模様をお伝えします。

2月初旬の稽古日。「こんにちは」の声とともに、メンバーが次々と集まってきました。ゆったり来る人、駆け込んでくる人。それぞれ、稽古場の前方に半円形に並べられた椅子に着席します。

最初に「何か言っておきたいことはありますか」とOUTBACK共同代表の中村マミコさんが投げかけると、手をあげたメンバーが現在の自身の状況などをシェアします。

この日は、週末の2日間の連続稽古の後、一日空いた稽古日でした。中には、「完璧主義なため、稽古を重ねて少ししんどくなっている」というメンバーも。中村さんが、「今回はうまくやることよりも、自分が何を感じてきたか、どういう気持ちの交流があったかを忘れないでいることのほうが大切。それでもみんなに頼られて、それが重荷になることがあったら言ってください」と声を掛けます。

また別の人は、言いにくいけれど、と前置きしながら「出演を迷っている」とのこと。「無理強いはしないけれど、この部分には協力してもらえたらどうかと思っている」と中村さんが提案。こうしたひとりひとりの状況をみんなにシェアしたり、一緒に考えたりする時間があることにみんなが安心感を感じているようでした。

続いて演出の多田淳之介さんから、全体の構成についてお話がありました。多田さんが創ってきた、全体の流れが書かれた紙を、みんなで読み合わせていきます。

「こんな場面があったらいいのでは」「アンコールが必要では?」「この歌ではハモりたい」「この歌では手話をしてみたい」など、メンバーから意見があがりました。

休憩を挟んだ後は、メンバーのアラレさんが考えてきた歌詞を披露。ユニコーンの「大迷惑」に合わせて作られたオリジナルの歌詞「大迷惑 入院ver.」です。病院での入院を経験したことがあるアラレさんによる、経験を元にした歌詞には、アラレさんの切実な心の叫びが表現されています。その歌は「大迷惑」の曲調と相まってダイレクトに胸に届き、みんなから拍手があがりました。

続いて、音楽家の西井夕紀子さんが、作曲した「病院のうた」を演奏しました。病院のポジティブな側面を歌詞にした、讃美歌のような美しい歌。西井さんが印刷してきた楽譜を見ながら、メンバーで音程を確認し、声を合わせて歌う練習をしました。

この「病院のうた」と交代で歌われるのが、メンバーのゆゆさんの経験を元に作詞したラップ。ユニークなリズムや歌詞の繰り返しの中に、入院中の苦悩が表現されています。特に「入院中のごはんは さばばっかり さばさば」という歌詞は一度聞いたら頭から離れません。このラップと、西井さんが作った讃美歌のような「病院のうた」を交互に歌うと、「病院」やそこで過ごす人のさまざまな側面が見え隠れします。

続いて、練習は、個人の歌へと移ります。

最初は、メンバーのえっちゃんが歌う「LOVE LOVE LOVE」。西井さんのピアノ伴奏で歌います。この歌の手話ができるというゆゆさんが隣に座り、歌詞を手で表現。ドリカムのライブDVDを見たことがあるというえっちゃんは、2回目になると立ち上がり、吉田美和さんを思い出しながら、身振りをつけて歌いました。メンバーもおのおの「LOVE LOVE LOVE」と合いの手を歌ったり、手を左右に振ったり、頭を振ったりしながら、音楽に乗っています。

続いてゆゆさんが、沢田知可子さんの名曲「会いたい」を披露。多田さんのギターと西井さんのピアノ伴奏で歌います。ゆゆさん自身もこの歌と重なるような経験をしたからこその思いがこもった歌声に、みんな思わず聞き入っています。歌い終わると、西井さんと相談しながら、コードをゆゆさんの歌いやすいように調整。「まるでコーヒー片手に歌っているよう」と中村さんが表現するように、過去のことを振り返りながらゆゆさんがゆったりと歌っているような調子へと変更されました。

最後に練習したのは、メンバーのくにくくさん作詞の「病院のうた」のラップバージョン。ゆゆさんとはまた異なる入院経験を持つくにくくさん。歌詞の内容はよくよく聞くと、驚くような、理不尽と感じる状況を歌っているのですが、ビートに乗ると楽しく聞けてしまうから不思議です。ここでは西井さんからみんなへ、テンポに乗りながら歌うと良い、とアドバイスもありました。

今後の予定を確認して、この日の稽古は終了しました。

次回は、メンバーが衣装を持ち寄り、打ち合わせなどを行うそう。スタッフやメンバー、それぞれが作ったものや感じたことを持ち寄りながら、作品が少しずつ立ち上がっていく現場の空気を感じることができました。

今回の公演タイトル「IKIZAMAミュージックぱーてぃー」に象徴されるように、作詞した歌詞や、歌うみなさんの様子には、まさにそれぞれの「生きざま」が表現されていました。また、切実な体験も、音楽にのせるからこそ、たくさんの人が受け取ることができるようにも感じます。本番は、今日練習で拝見した内容に加えて、精神科病院でのワークショップでの様子なども盛り込まれるとのこと。どんなパーティーが開かれるのか、今から楽しみでなりません!


ありがとう神奈川県民ホール<共生共創フェスティバル>
精神障害を考える演劇ワークショップ・プロジェクト 『IKIZAMAミュージックぱーてぃー』

2025年3月9日(日)16:30開演
神奈川県民ホール 小ホール
詳細はこちら https://kyosei-kyoso.jp/events/ikizama2025_kyosei-kyoso-festival/