精神障害を考える演劇ワークショップ・プロジェクト『IKIZAMAミュージックでぃなーしょー』公演レポート

2026/03/31

取材・文:福井尚子 撮影:橋本貴雄

2025年度で2年目となる、共生共創事業の「精神障害を考える演劇ワークショップ・プロジェクト」。演出家の多田淳之介さん、音楽家の西井夕紀子さん、そして精神疾患をかかえる人たちの声や表現を発信する活動グループ「OUTBACKプロジェクト」が県内の精神科病院を訪問し、入院患者のみなさんと交流するワークショップを重ねてきました。

今回のテーマは「食事」。ワークショップの交流でやり取りした食にまつわる思いやエピソードを、演劇と音楽で編み直したパフォーマンス『IKIZAMAミュージックでぃなーしょー』が、2026年3月1日(日)に上演されました。公演の模様をレポートします。

会場となったのは、横浜駅からみなとみらい線で一駅お隣にある新高島駅直結の、Art Center NEWです。会場内へ入ると、パーティーミュージックが流れ、電飾がキラキラと輝き、ワクワク感が高まります。

客席の後方には、前回に引き続き、手作りマラカスを作ることができるコーナーがありました!昨年度の公演時、客席から拍手を送ったり、音楽にのったりするときに大活躍したこのマラカス。今回も開演前に、たくさんのお客さんが紙コップの中にビーズを入れ、楽しみながら、オリジナルマラカスを準備していました。

 

でぃなーしょースタート!

舞台上に登場した、OUTBACKアクターズスクール校長の中村マミコさん、演出家の多田さん、音楽家の西井さんから、OUTBACKの紹介、今回のテーマや楽しみ方の説明があった後、メンバーたちが右手後方から精神障害を考える演劇ワークショップ・プロジェクトのテーマともいえる「牛丼マーチ」を歌いながら入場しました。

まずは、メンバー紹介。続いて、ワークショップの内容へと入る前に、OUTBACKメンバーのえっちゃんが、ワークショップの待ち合わせ場所に到着するまでのことを歌詞にした「高島屋の正面玄関まで行かれない」を歌います。

待ち合わせ場所になかなかたどり着かないことに端を発して、電車の乗り換えもわからない、駅名をどう漢字で書くのかわからない、など、次から次へと連想ゲームのように歌詞が連なっていきます。3人の人に道を尋ねて、集合場所になんとかたどりついたという、えっちゃん。その愛らしさと心温まるエピソードに、客席もほぐされました。

 

紫雲会横浜病院でのワークショップ

今年度は3箇所の精神科病院にワークショップに行ったというプロジェクト・メンバーたち。そのひとつ、紫雲会横浜病院のテーマソング「紫雲会横浜病院の歌」を、OUTBACKメンバー全員で歌いました。「作詞:みんな」とあり、ワークショップに参加したメンバー、一人ひとりの名前も登場するこの曲。きっと、OUTBACKメンバーと多田さん、西井さんが、ワークショップを思い出し、アイデアを出し合ってつくった曲なのでしょう。

歌い終わった後に登壇した病院の作業療法士・西浦さんは、「最高!うれしいです。“楽園 ホスピタル”という歌詞にあるように、病院が楽園のようになれたら」とコメント。また昨年度は入院患者のみなさんを公演会場へ連れてくることが難しかったそうですが、「今年はOUTBACKメンバーに背中を押されて連れてくることができました」と、一緒に登壇した紫雲会横浜病院に入院しているワークショップ参加メンバーを紹介しました。

ここからは、紫雲会横浜病院で行ったワークショップの再現が行われました。まずは、わらべ歌「お茶をのみにきてください」。2人の人が向き合って「こんにちは」と「さようなら」を行い、また別の人とペアになって挨拶することを繰り返します。

今回も舞台右手ではバンドメンバーが演奏しています。ドラム、コントラバス、ギター、ボーカルがいることで、わらべうたも厚みのある音で楽しむことができました。

次は食べ物を身体で表現します。中村さんが客席に「今晩何を食べたいですか?」と質問して出てきた、「崎陽軒のシウマイ」と「焼餃子」を、OUTBACKと紫雲会横浜病院のメンバーが混ざり合って、2グループに分かれて表現。腕を伸ばしたり、身体を縮めたりしながら、餃子の羽根、具、湯気などを形づくります。

こうして遊ぶようにワークショップを進めるうちに、会話がはずみ、仲良くなっていったと、中村さんが解説します。

 

忘れられない食事「目玉焼き」をつくる

病院内のワークショップのメインとして行われたのは、「忘れられない食事」について聴き合うことでした。ここで紫雲会横浜病院のメンバー・ともちゃんが、「目玉焼き」が忘れられない食事だと話します。入院生活の中で登場することがなかった目玉焼きを、作業療法の調理プログラムでつくって久しぶりに食べることができたのだそう。

そんなともちゃんの「目玉焼き」をつくる過程を、メンバーが身体で表現します。手をつないでフライパンをつくり、打楽器を鳴らして油が温まる音を表現、「卵」役がコンコンと音を立てながらフライパンに飛び込むと、思い出の目玉焼きができました。

 

食事にまつわる詩の朗読

続いて、残り2つの病院、慶神会武田病院の作業療法士である青木さんとヒデさん、神奈川県立精神医療センターのスタッフ福永さんとデイケアのメンバー3名が登壇しました。

2つの病院では、主に「食事」にまつわる詩を書くワークショップを行ったそう。慶神会武田病院の青木さんは、「幼い頃の食卓、緊張して食べられなくなった思い出、ハンバーグをパートナーに食べさせたいという詩などを通して、思いや人生に触れることができた」と話します。福永さんは、「長時間一緒に過ごしてきたけれど、食事にまつわる思い出を聞けたのは新鮮だった」と振り返りました。

続いて、登壇していた神奈川県立精神医療センターのデイケアメンバーの詩を読む時間。チーズの嫌いな「僕」といたずらな「君」とのやり取りが描かれた青木さんの詩、子どもの頃にタイ旅行へ行った際のインパクトの強い食事体験が短歌のようなシンプルさで表現された小野田さんの詩。どちらも忘れられない食事の風景が目に浮かびます。

最後に、摂食障害のために食べられるときと食べられないときがあるという、ひめさんの詩が朗読されました。ひめさんの思いには、朗読を担当したOUTBACKメンバー・ゆゆも、同じ摂食障害があるために共感できると話しました。

 

紫雲会横浜病院のメンバーによるステージ

今回のひとつのハイライト!とも言えるのが、紫雲会横浜病院のワークショップ参加メンバーによる演奏と歌の時間。絶中さんがキーボードの前に座り、試しにキーボードをポロンポロンと鳴らすとその音色に惹きつけられて、客席も前のめりに。気迫のある演奏に客席全体が聴き入りました。

続いて、NANAさんがレベッカの「フレンズ」を歌います。パワフルな歌声に客席もノリノリに!さらにバサラさんが登場すると、スクリーンには「大都会」の文字が。クリスタルキングの名曲を、手振りもつけながら堂々とした姿で歌い上げました。

昨年度の「IKIZAMAミュージックぱーてぃー」では、OUTBACKメンバーが、紫雲会横浜病院のワークショップメンバーたちの歌や演奏について紹介する場面がありましたが、まさか今年は実際の演奏を聴くことができるとは!プロジェクトが2年目となり、関係性が深まったからこその登壇に、胸が熱くなりました。

神奈川県PRコーナー

ここで会場は15分間の休憩に。休憩の終わりに始まったのは、神奈川県のPRコーナー。OUTBACKメンバー・サシくんが作詞・作曲した曲「神奈川をたべる」を歌いました。神奈川各地の御当地グルメが登場するこの歌。「こんなにいろんなものを知っているなんて、サシくんは随分グルメなんだな」と思っていたら、なんとAIに特産品と聞いて、「歌にして」と伝えてつくった歌なのだそう!

続いて「今度は自分でつくりました」と、サシくんが作詞した歌「千変万化」を披露。ファッションや流行は変わっても、食べ物には時代遅れがない、ということを歌った歌。サシくんならではの視点に、客席も唸ったり笑ったりしながら、休憩タイムを過ごしました。

 

食事にまつわる詩〜おろしポン酢の湯豆腐と餃子の歌

第2部では、OUTBACKメンバーや武田病院の食事にまつわる詩が披露されました。まず、スタートは朝びょんのエピソード。

自身の料理の作り方を、オンラインプラットフォームのnoteに投稿しているという、朝ぴょん。AIと協働しながら、レシピと詩を交互に書いているそう。そんな朝ぴょんの「詩レシピ」の中から「おろしポン酢の湯豆腐」が歌になりました。

レシピ部分をチャイコフスキーのバレエ音楽「白鳥の湖」の情景のメロディにのせて、OUTBACKメンバーのまるちゃん(マルティネス)とシェーンが歌い、ポエム部分を朝ぴょんが読み上げます。真剣でコミカルな2つの場面の交換によって、「おろしポン酢の湯豆腐」のレシピは、ドラマチックな歌になり、最後は拍手喝采となりました。

続いてはシェーンの「餃子の歌」。シェーンが家族で餃子を包んだ思い出を歌い、その他のメンバーが餃子を包む手の動きをしながら、コーラスします。会場もマラカスを振って参加します。

 

摂食障害を身体で表現する

摂食障害で、拒食と過食を繰り返すゆゆが作詞した「ゆゆの胃袋」では、胃の様子をメンバーが身体を使って再現しました。拒食期は食べ物を拒否するけれど、過食期はどんどん食べ物を入れてしまう「ゆゆの胃袋」。胃がパンパンになり悲鳴をあげると、胃薬が登場します。

こうしたことを繰り返す胃の状態を身体で表現することで、摂食障害がどんな状態かということが観客にわかりやすく、また臨場感を持って伝わりました。

ここで「最近の体調はいかがですか?」と中村さんが、OUTBACKメンバーにマイクを向けます。仕事を変えたばかりで眠れない日々が続いていること、知り合いが亡くなって幻聴が聴こえることなどがメンバーから明かされます。パフォーマンスだけでなく、こうした一人ひとりの「今」を聴くことができるのも、公演における大切な時間です。

 

病院と食事、家族と食事

去年の「IKIZAMAミュージックぱーてぃー」でも披露された曲、OUTBACKメンバーの入院生活への違和感を歌詞にした「病院のうた」を歌いました。穏やかなメロディで歌われる病院の良い面と、入院中の苦しみが歌われたビートのきいたラップパートが交互にくるかっこいい楽曲。メンバーも実感をこめて歌います。

続いて、慶神会武田病院でワークショップに参加した方々の詩「病院と食事」を、OUTBACKのメンバーが食事シーンを再現しながら読み上げます。「すしがとても好きだけれど病院食では出てこない」ということがうたわれた詩を、えっちゃんが切実な様子で読み上げ、「早く帰りたい、主人にハンバーグをつくって食べさせたい」という詩を、あやみちゃんがしっとりと、しかし言葉に思いを込めて表現します。

「入院生活の中では食事が生活の彩りになる」という中村さんの言葉に、客席も頷きます。外に出ることができない、繰り返すことが多い日々の中で、食事は変化であり、季節を感じるものでもあるのでしょう。

場面が変わって、次は「家族と食事」のシーンです。こちらも同じく慶神会武田病院の患者さんによる詩で、外食をしたこと、母の手づくりの料理のこと、すき焼きを食べたこと。なかには、団らんの風景と反対に、誰も話さない静かな食卓で自身が追い詰められていく場面も。客席からは「う〜ん」と感じ入るような声も聞こえました。

最後のシーンは、「りっちゃんの高校時代のご飯」。複雑な家庭環境で育ち、学校が居場所だったというOUTBACKメンバーのりっちゃん。3日間ご飯を食べられなくて、職員室に助けを求めたところ、たくさんのおいしい料理を食べさせてもらえたしあわせな思い出が、お芝居で表現されました。

「牛丼マーチ」がかかったらお開きの時間。中村さんが「今日の夕飯何食べますか?」とOUTBACKメンバーへ問いかけると、「1000円以内のおいしいラーメン!」「お兄ちゃんがつくったカレー!」などの声が次々と上がります。

「わんわん るるる ららら らららん」のメロディに合わせて、客席も手作りマラカスを振りながらメンバーを見送りました。

「食事」がテーマだった今回。食べ物そのものにも、誰かと食事をした思い出にも、楽しい、嬉しい、苦しい、悔しい、怖い、さまざまな感情が紐づいていることを感じました。

また、共生共創事業として2年目の公演には、昨年つくった曲が登場し、登壇する人が増えるなど、年月を重ねた厚みを感じる場面もありました。特に、今回のひとつのハイライト、紫雲会横浜病院のメンバーによる演奏は、関係性が深まったからこそ実現したように感じます。

関わる人が増え、表現の幅も広がる「精神障害を考える演劇ワークショップ・プロジェクト」。演劇を通して、たくさんの体験や思いを客席に共有してくれました。きっと、一人ひとりが自分以外の誰かの背景を想像することにこそ、さまざまな人が共に生きるヒントがあるのだと思います。音楽と演劇を通して、生きざまを味わう時間を、ごちそうさまでした!

紫雲会横浜病院でのワークショップレポートもあわせてお楽しみください。 https://kyosei-kyoso.jp/5075/


神奈川県共生共創事業
精神障害を考える演劇ワークショップ・プロジェクト 『IKIZAMAミュージックでぃなーしょー』

2026年3月1日(日)15:00開演 ※終了しました
Art Center NEW
詳細はこちら https://kyosei-kyoso.jp/events/ikizama20260301/