精神障害を考える演劇ワークショップ・プロジェクト 紫雲会横浜病院でのワークショップレポート

2026/03/31

(取材・文:岡田想太郎)

共生共創事業「精神障害を考える演劇ワークショップ・プロジェクト」では、精神疾患をかかえる人たちの声や表現を発信する活動グループ「OUTBACKプロジェクト」と、演出家・多田淳之介、音楽家・西井夕紀子が県内の精神科病院を訪ね、入院患者のみなさんと交流するワークショップを重ねてきました。

事業の2年目となる今回のテーマは「食事」。昨年度訪れた紫雲会横浜病院と慶神会武田病院に加え、神奈川県立精神医療センターでもワークショップを行い、それらの体験をもとに創作したパフォーマンスを2026年3月1日に『IKIZAMAミュージックでぃなーしょー』(https://kyosei-kyoso.jp/events/ikizama20260301/)にて披露しました。

今回のレポートでは、2025年11月12日、11月26日の両日に行われた、紫雲会横浜病院でのワークショップの様子をお伝えします。


ワークショップに参加するのは、「OUTBACKプロジェクト」のメンバーとスタッフ、紫雲会横浜病院のスタッフ、そして入院・通院患者のみなさん、合わせて各回30名前後です。紫雲会横浜病院の二階OT室(作業療法室)で談笑しながら待つOUTBACKメンバーのもとに、患者のみなさんが少しずつやってきました。参加者たちは、名札に今日呼ばれたい名前を書いて胸元に貼ります。

11月12日の第一回ワークショップでは、チームに分かれて「今晩食べたいもの」というお題で身体表現と発表を行いました。例えば「ししゃものしそ巻き」をあげたチームでは、一人がしそ、一人がそれに巻かれるししゃもを身体だけで表現します。ししゃもになったOUTBACKメンバーののぺが身体だけでなく顔の表情も使うと、「ししゃもって本当にあんな顔してる!」と周りから感嘆の声があがります。

続く11月26日の第二回ワークショップでは、「ゆっきー」こと音楽家・西井夕紀子の進行によって、これらの身体表現に音楽という要素が加わります。参加者もウクレレ、タンバリン、ウッドブロック、トライアングル、ウィンドチャイム、鈴、ささら、小さな太鼓、ホースなど、いろんな楽器を手に取って音づくりに参加します。

今回のお題は「今まで食べたなかで、印象的で、忘れられない食事」。
入院患者のともさんが忘れられないのは、作業療法プログラムで食べたという目玉焼きです。「何年ぶりかに食べて、涙が出るほど感動した。こんなに美味しかったんだって」と語るともさん。参加者たちは様々な質問をして、より具体的にその体験を掘り下げていきます。「どんな味?」「懐かしい味」「味付けは?」「醤油」「固さは?」「半熟」――そうして、「懐かしくて、醤油味で、黄身がとろりとした目玉焼き」を再現します。

OUTBACKメンバーのえっちゃんはウッドブロックで卵を割るときの音を再現し、他の参加者たちはマラカスやタンバリンで卵が焼ける音を再現。入院患者の絶中さんはウィンドチャイムで「とろ〜んな感じ」を表現します。完成したら、同じく入院患者の愛美さんが「焼けたー!」と勢いよく叫びます。

そのほかにも、ねもねもちゃんが忘れられないという「やつがしらの煮物」、くぅみんちゃんが忘れられないという「キウイフルーツパフェ」を、身体と音楽で再現しました。
グツグツと煮詰まった芋の甘じょっぱい味、数年ぶりに食べたとろとろの目玉焼きへの涙が出るほどの深い感銘、キウイフルーツパフェの爽やかな酸味と甘味――それらの感覚が、音楽によって、実際に自分のなかに呼び起こされていることに不思議な感動を覚えました。当人以外は実際におぼえたことがないはずの五感を追体験するような、どこか神秘的な時間でした。

このように、「⾷事」を通じた⼈との繋がり、あるいは涙が出るほどの感動、反対に「⾷事」と結びついた苦しみなど、さまざまな記憶や体験がワークショップのなかで交わされました。

ワークショップでは、事前に用意されたレクリエーションに加えて、それぞれの参加者が持ち寄った音楽を発表したり、コーヒー休憩の間に自然なかたちで豊かな音楽体験が生まれたりする、という瞬間が多くありました。

例えば第一回の休憩時間では、入院患者の絶中さんがOT室のアップライト・ピアノの前に座り、本人による作曲だというピアノ・ソナタを演奏しました。壮大で激情的なその音楽に、談笑していた参加者たちはいつしか演奏に聴き入り、演奏が終わると大きな拍手が起こりました。


OUTBACKメンバーの株式会社マルティネスは、持参のアコースティック・ギターを取り出し、「11月が誕生日の人いますか?歌います」と呼びかけます。参加者たちからは手があがらなかったので、11月29日生まれの尾崎豊の誕生日を祝うことになります。「ハッピー・バースデー・トゥー・ユー ハッピー・バースデー 尾崎」と、参加者みんなで合唱するという、なんとも愉快な一幕もありました。

同じ回の終盤では、一年前のワークショップでも大の尾崎豊ファンとして強い印象を残した入院患者のNANAさんが、ゆっきーの演奏に合わせて、自身による作詞だという楽曲を歌唱します。どこか寂しさをたたえつつも円熟した響きのある、艷やかなバラードでした。

このように、ワークショップ参加者たちの⾃由で豊かな表現を通した交流は、今回も⼀つの舞台として形になり、3月1日に披露されました。そんな『IKIZAMAミュージックでぃなーしょー』の公演レポートは、こちら(https://kyosei-kyoso.jp/5007/)からご覧ください!

 

 


神奈川県共生共創事業
精神障害を考える演劇ワークショップ・プロジェクト 『IKIZAMAミュージックでぃなーしょー』

2026年3月1日(日)15:00開演 ※終了しました
Art Center NEW
公演詳細はこちら https://kyosei-kyoso.jp/events/ikizama20260301/
公演レポートはこちら https://kyosei-kyoso.jp/5007/