精神障害を考える演劇ワークショップ・プロジェクト『IKIZAMAミュージックぱーてぃー』メンバーインタビュー

2025/03/06

取材・文:福井尚子 撮影:橋本貴雄

 

〈共生共創フェスティバル〉の一演目として、2025年3月9日(日)に上演される精神障害を考える演劇ワークショップ・プロジェクト『IKIZAMAミュージックぱーてぃー』。本企画を行うのは、精神疾患をかかえる人たちの声や表現を発信する活動グループ「OUTBACKプロジェクト」と演出家の多田淳之介さん、音楽家の西井夕紀子さんです。

これまでに2つの精神科病院(紫雲会横浜病院、武田病院)を訪ね、入院患者のみなさんと「大切にしてきた歌/音楽」を交換するワークショップを重ねてきました。3月9日(日)には、ワークショップで感じたことや自身の体験を持ち寄りながら創作した作品を上演します。

『IKIZAMAミュージックぱーてぃー』に出演する、OUTBACKメンバーのくにくくさんとえっちゃんに、ワークショップの感想や公演に向けた思いを伺いました。

――2021年に立ち上がったOUTBACKアクターズスクール。くにくくさんは一期生、えっちゃんは二期生として参加しています。まず、お二人がOUTOBACKに参加したきっかけを教えてください。

くにくく:私は同じ一期生のゆゆさんからの紹介で、立ち上げ前のワークショップに参加しました。みんな和気あいあいと楽しそうにしているのを見て、一緒にやってみたいなと思い、OUTBACKに加わりました。

えっちゃん:私は2021年にお友達が参加していたOUTBACKのはじめての公演を観に行きました。一番前の真ん中の席で観ていたんです。楽しそうだな、と思っていたところ、中村マミコ校長先生に「入ることができますよ」と教えてもらって参加しました。

写真中央がえっちゃん

――お二人とも年に一度の本公演の他に地方遠征にも参加し、舞台の経験を重ねています。今回の公演に向けては、まず2つの精神科病院で3回ずつワークショップをしました。病院のワークショップで印象的だったことや感じたことがあったらお聞きしたいです。

くにくく: はじめはみんな緊張したような様子でただ見ているだけだったのが、回数を重ねるごとに、積極的に前に出てくるようになって。病院の参加者のみなさんが心を開いてくれる瞬間に出会えたときに感動しました。楽器を勢いよく演奏したり、ピアノをすごく上手に弾いたりする人もいて、職員の方も「え、あなたが?」とびっくりしていたようです。参加者のみなさんの隠れた芸術性が垣間見られたなと感じましたね。

えっちゃん:OUTBACKのメンバーと病院の参加者が2人組になったときに、おがちゃんという人と一緒になりました。大谷翔平さんのファンで、食べ物はお寿司が好きだと言っていて。話をしてすごく楽しくて、できればまた会いたいぐらい。でも入院だとなかなか好きなお寿司を食べることも、楽しむことも自由にならないことにはがゆさを感じました。

――ワークショップ参加者の方からはどのような反応がありましたか。

くにくく:病院という、外の世界から閉鎖されたところにいるから、外部から人が来ることに対してすごく敏感だと思うんです。だからはじめは開始の時間ギリギリに「ちょっと顔出した」という感じだったけれど、2回目3回目は「待ってたよ!」というように時間前から集まってくれていて。楽しみにしてくれていたのを感じました。

えっちゃん:みなさん楽しんでくれていたように感じます。歌が上手な人もいました。私も楽しかったし、みんなも楽しそうでした。入院中は退屈だから、こうしたワークショップのような楽しむ体験をもっと増やしたほうがいいんじゃないかと思いました。

病院でのワークショップ中のくにくく

――今回みなさんで創作された「入院のうた」には、ご自身の入院体験も歌詞として盛り込まれていますね。ワークショップに参加されることで、思い出されたご自身の経験もありましたか。

えっちゃん:私は18歳のときに半年間入院していました。病気になったことですごく落ち込んでしまって。入院の経験は良い思い出がなくて、1日に15分しか散歩に行けなくて、とにかく退屈でした。ご飯はインゲンと人参とサバがよくでてきましたね。

――公演で披露される「入院のうた」にも「入院中のご飯は サバばっかり サバサバ」というラップが出てきますが、それだけ強烈な印象だったのですね。アルコール専門病棟に入院されていたという、くにくくさんの歌詞になっていたアルコール検査の体験にも驚きました。

くにくく: 退院間近に外泊ができるんですよ。土日に外泊して、戻ってくると飲酒しているかどうかのチェックがあって、ある人が引っかかったわけです。「飲んでない」と言い張るけれど、「反応出てるから飲んできたんでしょ」と看護師さんは言って。その人がぶどうパンを出して「これ食べた」というから、看護師さんが食べてみて、検査したら、たしかにアルコールの反応が出た。でも機械で反応が出たから、見逃すわけにはいかない、と隔離部屋に連れていかれてしまいました。

――道理としては看護師さんの対応をおかしいなと思ってしまうのですが、マニュアルの中で管理するときに、そういう状況も生まれてしまうのでしょうか。お二人は今回のワークショップでの経験を経て、病院や治療に対して、どんなことを考えていますか。

くにくく:入院患者のみなさんがワークショップを楽しみにされているのを見て、こういう体験はもっと必要なんじゃないかと思いましたね。病院側ももっと受け入れる体制を作るのも必要だし、我々のような活動をしている人も積極的に出ていくことも必要だし。それによって患者さんが心を開き、隠れた才能を開花して、才能を伸ばす環境をつくることができたらいいんじゃないかなと思いました。

えっちゃん:今回のワークショップのようなことをたくさんして、入院している人も、もっと楽しめたらいいなと思います。きっとそのほうが早く快復するんじゃないですかね。私も暗闇の中にいるようだった時期があって、いろんなことを諦めていたことがあります。でも今はずっと我慢していた大好きなパフェを食べたり、OUTBACKの地方遠征に参加したり、たくさん友達ができたり、と楽しいことが増えてきました。楽しむこと、自分を楽しませることを諦めないでほしいです。

――今話していたような、治療や治癒の過程がどうあったらよいか、ということも公演の中では話す場面があるそうですね。今回の舞台で注目してほしいところや見どころがあれば教えてください。

くにくく:今回はパーティーなので、お客さんと一緒に自分も楽しむ感じかなと思っています。今練習している「東京ブギウギ」が歌詞も難しくて、転調もするし、覚えられるかなとドキドキしています。公演は同じような悩みを抱えている人にこそみてもらって、自分にはなんでもできるんだということを感じてもらえたら嬉しいです。

えっちゃん:どの曲も良い歌なので、歌をしっかり聴いてほしいですね。本番では歌と一緒に、どんな思い出があるかという話もするので、そこも楽しみにしてもらえたらと思います。

――最後に公演をご覧になる方にメッセージをお願いします!
くにくく:今回の公演は「生きざま」というぐらいなので、3月9日に観にきてくれるお客様の「生きざま」も出してもらいたいです。公演に参加したことが「生きざま」だと思ってもらえるようにしたいし、そうできるようにします!

えっちゃん:ミュージックパーティーなので、楽しんでいただけたら。みんなで音楽を聴いて、歌いたいところは一緒に歌ってもらえたら嬉しいです。


ありがとう神奈川県民ホール<共生共創フェスティバル>
精神障害を考える演劇ワークショップ・プロジェクト 『IKIZAMAミュージックぱーてぃー』

2025年3月9日(日)16:30開演
神奈川県民ホール 小ホール
詳細はこちら https://kyosei-kyoso.jp/events/ikizama2025_kyosei-kyoso-festival/