言語の壁による孤独や孤立を防ぐ

撮影:川島彩水

スペイン語で行う介護予防教室「シエンプレゲンキ」

藤沢駅から徒歩2分ほどの距離にある、カトリック藤沢教会。日が暮れる頃、その一室からにぎやかな声が聞こえてきました。集まっていたのは、10人ほどのシニア。右手でグーチョキパー、左手でパーチョキグーを同時に行います。ついつい右も左も同じ動きになってしまって、笑いが起きます。

「できるかできないかじゃなくやってみることが大事」と、みんなにスペイン語と日本語で語りかけるのは、小澤エリサさん。外国人のための介護予防教室「SIEMPRE GENKI(シエンプレ ゲンキ)」を主催しています。

間違い探しなどプリントを使ったワークに続き、「だるまさんがころんだ」によく似たペルーのあそび歌に取り組みました。この日参加していた共生共創事業の「あそび歌プロジェクト」のメンバーと外国人のシニアが言葉を交わし、それぞれの国のやり方を一緒に体験してみます。子どもの頃どのように遊んでいたか、過去を思い出す参加者たち。さまざまなゲームを通して、シニアの方々は、自然と日本語の表現にもチャレンジしながら、年齢や言葉の違いを超えて、交流を楽しんでいました。2時間の教室を終えると「ありがとう」「グラシアス」と参加者のみなさんは充実した表情で帰っていきました。

小澤エリサさん

 

地域で長く元気に暮らすために

シエンプレゲンキを主催する小澤エリサさんは、日系アルゼンチン人2世。日本人の配偶者として1989年に来日し、現在はグループホームで介護福祉士として働いています。以前は、スペイン語を活かして、自治体の外国人相談窓口の相談員をしていました。高齢になった外国人が、年金や介護制度について知らず、貯金をしていない場面に遭遇し、外国人が少しでも長く、地域の中で元気に暮らすため自分にできることはないかと考え始めたそう。「体操もできるし、日本人のお友達もできるからぜひ行ってみて、と地域にある介護予防教室を勧めることがありました。でも『日本語がわからないから』と誰も行かなかったんです」。そこで2016年、自らスペイン語による介護予防教室を始めました。

厚木で始めた活動は、参加者のリクエストで藤沢へと展開。その後、平塚、大和、相模原でも開催。コロナ禍で教室がストップした時期を経て、現在は、藤沢で月に一度、群馬県伊勢崎市で2ヶ月に一度教室を開いています。さらに茨城や埼玉、山梨などさまざまな場所で体操や脳トレの他に、認知症や介護保険についての話も含む特別ワークショップを行っています。

教室の中では、体操を行うだけでなく、ホワイトボードに日本語を書き、新年のあいさつや成人式の話題など、日本の文化についてエリサさんが話す場面もありました。「30年以上日本で暮らしていても日本語が話せない方も多くいます。今はそれで生活ができるかもしれませんが、将来介護が必要になったときに、介護施設に通訳ができる人がいるとは限らない。言葉がわからないことで、孤独になっていくと思うんです。だから今のうちに最低限のことが話せて、日本の文化を受け入れられるようになったらと思って、言語や文化について理解を深める内容も入れています」。

これまでの参加者の中には、「シエンプレゲンキに通い続けたい」と思ったことをきっかけに、家族のサポートなしに一人で外出できるようになった方もいたそう。「その方が来るときには、若い参加者が駅まで迎えに行っていました。助け合える仲間がいるコミュニティになっています」。

シエンプレゲンキは「介護予防教室」ではありますが、プログラム内容はその日参加する人の体調やニーズに合わせて柔軟に変更します。困りごとを相談したい人がいるときには、ワークをせずに話すだけの時間にすることもあるそう。身体の健康を保つこと以上に、エリサさんが大切にしているのは孤独や孤立を防ぐこと。「家から出て、人と話し、笑って、また来たいと思える。そんな場所になれたら」。

これまで10年間一人で活動を続けてきたエリサさんですが、これからは仲間を見つけたいと話します。そのため、共生共創事業の企画で行う「あそび歌プロジェクト」のワークショップへの参加、福祉団体による視察や大学生の手伝いの受け入れなど、活動を地域や外へ開くことも積極的に行っているそう。今後は地域の介護予防教室への橋渡しを行うようなボランティアグループの立ち上げや、自治体とつながっていくことも考えています。「外国人のための介護予防について、一緒に活動できる人をみつけ、若い世代につなぎ、全国に広げていきたいです」。穏やかに、でもはっきりとそう語ってくれたエリサさん。今後全国の多くの自治体が直面する、外国籍の方の高齢化に伴う介護の問題。外国にルーツのある方の地域コミュニティづくりにも寄与するシエンプレゲンキの活動は、これからますます必要とされていくのではないでしょうか。

藤沢市での「あそび歌プロジェクト」のワークショップ(2026年3月8日開催)では、
今回体験した「だるまさんがころんだ」に似たペルーの遊びも紹介予定。

 

シエンプレゲンキ
https://www.facebook.com/siempre.genki
https://www.facebook.com/eli.ozawa