対談 長塚圭史×飯山智史『誰一人取り残さないために』

人が来やすく、来たくなる劇場づくり

飯山:僕は2017年9月頃から「EMPOWER Project」という団体の共同代表を務めています。東京大学の井筒節准教授の授業で訪れた国連で、SDGsの根幹にある「誰一人取り残さない世界」という考え方を知り、僕なりに今世界で取り残されている人とはどういう人だろうと考えた結果、生まれた団体です。

長塚:どういう人が取り残されているんですか?

飯山:私は障がい者の方、特に精神障がいのある人、メンタルヘルスに困難を抱えている人だと感じます。

長塚:特に精神障がい者に課題を持たれたのはどうしてですか?

飯山:昔は障がいというのは、人の中に何かしらの障がいがあり、それを治すことで障がいを乗り越えていくという「医学モデル」の考え方でした。しかし現在は、スロープやエレベーター、点字ブロックなどを増設するなど、社会側に存在する障がいをなくすことで、その人は障がい者ではなくなるという考えに変わりました。ただ、精神障がいという分野は、そういう物理的な設備などでは解決しにくいんです。

長塚:どうしたら彼らが生きやすい社会を作っていけるか、ということを考えたわけですね。

飯山:みんな思っていることもニーズも見えているものも違う中で、どうすればもっと生きやすい社会を作れるか。それを解決するには、結局「優しさ」が重要だということに気づいたんです。いつでも協力を求められる世界があれば、それが障がいのある人だけじゃなく、全員にとって生きやすい社会なんじゃないか、というとても基本的なところに立ち返りました。

誰でも誰かの協力者になれる

長塚:そして「マゼンタ・スター」を考案された。今、マタニティーマークやヘルプマークなどがあって、僕自身もそのマークを見て気づきが生まれることが多いです。

飯山:マークをつけた人に対する協力では、なかなか一歩を踏み出せないことや、当事者と協力者の間に境界線を感じることもあります。だから逆転の発想で、その線を取り除き、補完する形で協力者が意思表示をするのがいいと思い、マークを考案しました。デザインもいままで福祉や障がいに興味がなかった若者とかを巻き込んでいきたいということで、一見そういったこととは結びつかないようにしたんです。

長塚:かっこいいですよね。これは例えばヘルプマークなどと一緒につけてもいいんですか?

飯山:はい。障がいのある当事者の方たちの中には、「自分は協力される側だ」と自分でマイナスイメージをつけてしまう人もいます。でもこのマークをつけることで、自分も誰かのためになれる、自分も協力者でいいんだというマインドが沸いてきて、自分から動くようになったという声をいただき、嬉しかったです。

長塚:マークをつけることによって、障害があろうとなかろうと、誰でも誰かの協力者になることができるということですね。ただ、いつでも誰かの協力者になるのはなかなか難しい。抱えている問題はそれぞれで角度が違うし、その時々によって状況も異なります。

飯山:マークは取り外し可能ですから、何か協力しなければいけないと義務的に考えるのではなく、自分の意思でそこはコントロールしてもらえればと思っています。それは突き放しているのではなく、持続可能な関係を保つということです。

↑マゼンタ・スター

障害者と演劇

長塚:僕は、知的・発達障がいのある子ども達の社会参加を支援するNPO法人「ドリームエナジープロジェクト」が初めて演劇を創ろうとした時に関わりました。最初、ダウン症の人をよく知らなかったんだけど、実際に会ってみると、個性が際立ち、褒めるとどんどん魅力を発してくる。そこで僕は障がいがあることはマイナスではないし、今の状態でできる道を探すことを応援してあげることで、唯一無二の芝居ができるということを知りました。

飯山:障がいがある人って、演劇や美術が好きな人が多い気がします。特に精神障がいのある人からは、劇場の中だと誰とも比べられないのが居心地いいという声も。自分の世界で自分の範囲で理解でき、没頭できる。それは観る側であっても、やる側であってもだと思います。

長塚:おっしゃるとおりだと思います。障がいがあろうとなかろうと、そこに差はない。障がい者の人の演劇となると、社会のための演劇とか、普通の演劇とは線を引かれてしまったりする。だけどもっとその境界線がなくならないものか、僕も演劇を通してもっと考えていかなければいけないなと思います。

誰でも気軽に来られる劇場づくりへ

長塚:飯山さんも演劇がお好きということですが、いまの演劇や劇場についてどう思いますか?

飯山:僕も高校時代に少し演劇をやっていて、その頃から舞台に行きますが、失礼ながら観覧料金が高いなとか、敷居が高いなと思ってしまいます。

長塚:それは我々劇場側も抱えている問題のひとつで、さらには来てくれるお客さんの層が広がらないことも問題になっています。演劇好きのお客さまは我々を支えてくれる大事な存在だけど、新しいお客さまがなかなか入りづらい。特にKAATは県立の劇場ですから、アートや演劇が好きな人だけが来るところではなくて、もっといろんな人が出入りしていい場所であるべきなんです。

飯山:確かに劇場や美術館がもっと簡単に行ける場所になればと思います。何か考えていらっしゃることはありますか?

長塚: 例えばKAATの入り口には大きなスペースがありますが、現在は演劇を観にきた人が滞留する場所になってしまってるけど、本来は誰でも来てもいい場所。フラッと遊びに来て、KAATってなんだろう、楽しそうだな、ここで何が起きているのかな、と思って、興味を持ってほしいんです。あとは席の料金を低くするというのも一つの手だと思っています。極端に安い席があってもいい。

飯山:僕も舞台全体が見えないような安い席で観ることもありますが、そういう席は見えないところを自分で想像する楽しさがあります。

長塚:そう、観劇ってイメージがすごく大事なんです。劇自体、ストーリー全部を説明しているんじゃなくて、選択肢だらけ。描かれていない空間もあれば、自分たちとは違う人種の話だったりもしますから、わからない部分のイメージを補完するのはお客さん自身。だから観劇中に頭の中で描いているイメージの大きさって半端ないと思います。それに演劇から強烈なインパクトを受けたり、記憶に刻まれるのは、観ている人自体が参加者だから。いろんな人に参加者になってほしいんです。

もっと居心地の良い場所へ

飯山:先ほど長塚さんが劇場の入り口スペースのお話をされましたが、僕はそういう開けた場所で演劇をやると、どんな人でも気軽に演劇を見に行けると思うんです。赤レンガ倉庫などでも誰でも参加できるクラシックコンサートが開催されたり、横浜って素晴らしい場所がたくさんあるから、そういうところで自由に舞台を観られたりすると、障害のあるなしに関わらず、誰でも楽しめるのではないかと思います。

長塚:僕もまさしく、劇場からはみ出るというのを大いにやってみたいと思っているんです。例えばKAATでやった作品を県内でツアー化してもっと観やすいものにしたいし、この立地を生かしたい。KAATの隣には立派なホテルがあるので、そこに宿泊する海外のお客さまが日本の演劇に触れるきっかけとして、英語字幕を取り入れたりとかも。

飯山:長塚さんが演出される『セールスマンの死』(1月8日(金)〜12日(火))でも、「ポータブル字幕機」が導入されるんですよね。

長塚:上演中に台詞や音の情報をお客さまの手元で見ることができるサービスです。僕たちはここからはまだ見ぬお客さんたちに出会っていくために、その最善の方法、違う形で見られる方法、誰もが楽しめる方法とは何かを考えていかなければいけないんです。

飯山:お客さまを選ばない、いろんな人が来やすい劇場や演劇が開催される場所が、居心地のいい場所になるというのは素晴らしいことだと思います。ハードルをどんどん下げていってほしいと思います。

長塚:僕も劇場が居心地いい場所にしたい。だから劇場にいままでの来てもらうというスタンスから、いろいろ面白いことが起こる場だよと、ただ待つんじゃなくて僕らの方から外に出ていって声をかけていき、新しいお客さまとつながれるように発信する必要が求められているなと思っています。これからKAATは新しいことを仕掛けていきますので、ぜひ気軽に遊びにきてほしいですね。

 


○プロフィール

長塚圭史(ながつか けいし)
演出家・劇作家・俳優。1975年5月9日生まれ。1996年早稲田大学在学中に演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を結成し、作・演出・出演の三役を担う。2011年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、2017年には、福田転球、山内圭哉らと新ユニット「新ロイヤル大衆舎」を結成。
2008年9月から1年間 文化庁・新進芸術家海外留学制度にてイギリスに留学。
2021年4月より神奈川芸術劇場・芸術監督。

飯山智史(いいやま さとし)
神奈川県小田原市出身。東京大学医学部健康総合科学科に在学中。国連「持続可能な開発目標(SDGs)」が目指す「誰一人取り残さない」世界実現のため、従来の当事者マークとは逆転の発想で「協力者カミングアウト」を進める「EMPOWER Project」(https://empowerproject.jp/)を立ち上げる。

 

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