多国籍社会の魅力を「あそび歌」を通して発掘する「神奈川県あそび歌プロジェクト」。 振付家や音楽家が、県内在住の外国にルーツのある方たちにインタビューし、彼らが小さいころにあそんだ「あそび歌」 を、日本で暮らす子どもたちがあそべるようにアレンジしました。これまでにアレンジされたのは、韓国・朝鮮のあそび歌『チンドアリラン』とラテンアメリカのあそび歌『ペリキト 』。今回はアレンジを行った振付家のホナガヨウコさん、音楽家の3日満月(権頭真由さん、佐藤公哉さん)、そして『ペリキト』に参加してくださった小林よしひささんにお話を伺いました。
―今回「神奈川県あそび歌プロジェクト」に参加して、創作や撮影に取り組まれましたが、その過程の中で悩んだ点や工夫された点を、お聞かせください。
ホナガ:私は今回、振り付けを担当しました。この2曲はもちろん原曲があり、その土地で歌い継がれ踊られてきたものです。そういったすでに形あるものを、今回どの程度アレンジしていいのか、自由に変えてしまっていいのかということにまず悩みました。
それにアレンジをしていく過程で、日本人にとってわかりやすく踊りやすい形にすると、日本で見たことあるようなものになることもありました。そうするとその国らしさが消えてしまうし、その国の人たちに違うと思われるのは嫌だと思い、自分で原型を掘り下げるようにシフトしました。実際に「あそび歌」を紹介してくださった方だけでなく、その国にルーツを持ついろんな方に話を聞き、それぞれのバリエーションを調べてつくってを繰り返しました。
3日満月:私たちは発見が多かったですね。今回、音楽と振り付けと担当が分かれてはいますが、実際にはホナガさんと意見交換をしたり、音楽のアレンジにもアドバイスをいただいたり、(普段から交流のある)子どもたちもまじえて一緒に考えたり、私たち自身も踊ってみたりしながらつくっていきました。その中でもやはり一緒にあそび歌をつくる上で、子どもたちの存在はとても大きかったですね。私たち大人が議論して盛り上がっても、それはあくまでも大人の目線でしかないんです。だから子どもたちに実践してもらうと、これは通用しないな、よくない表現かもということが、あとからわかることも多かったですね。
ホナガ:子どもたちってびっくりするぐらい柔軟で、発明家なんです。それに率直に良い悪いを言ってくれます。
3日満月:まさしく「子ども先生」でしたね。私たちも子どもたちと一緒につくりあげていくことで、音楽や振り付けの過程、変化というものを目の当たりにしました。ただつくって渡すだけじゃなく、一緒にやることの面白さというものもすごく感じたプロジェクトです。
―「あそび歌」を紹介してくださった方との話し合いの中で、気付かされたことなどはありましたか?
ホナガ:世界でもみんな小さいころから同じようにあそび歌に触れ、踊って歌ってきたことに改めて気付かされました。当たり前のことですが、そういう話をする機会ってほとんどありませんよね。まったく違う国に育ちながら、「あそ び歌」はどこの国にも存在し、国や職業にこだわらずに、どの年代でも盛り上がる、話の きっかけにもなるという、会話の新しいコミュニケーションツールになると思いました。
3日満月:みなさんそれぞれ個性的な方で面白かったですが、このプロジェクトがないとおそらくその人たちと出会うことはなかったたと思うんです。その人たちと一緒に何かをつくりあげるというのは、必然の出会いであり、私たちにとってもいい機会でした。特に私たちは原曲のアレンジということでいろいろと相談させてもらいました。
ホナガさんの振り付けのように、どこまでアレンジしていいのかというのはありましたが、プロジェクトに協力してくださった方はとても喜んてでくださり嬉しかったですね。昔から聴いて踊ってと馴染みのある方に喜んでいただけるのは、アレンジした側としても嬉しいし安心しました。
―小林さんはこれまで海外のあそび歌に触れられたことはありましたか?
また今回「ペリキト」でダンスに参加されましたが、いかがでしたか?
小林:このお話をいただいた時、ちょうど世界のあそび歌を調べていた時期だったんです。そのきっかけが、エジプトの保育士さんが日本の保育園を視察に来られるのに同行し、あそび歌などをお教えしたこと。その時に、国も言葉も年齢も身体の大きさも違う子どもと大人が、エジプトのあそび歌を通して一気に仲良くなったんです。それを見て、「あそび歌というのは言葉や国が違っても、子どもたちは楽しいとか面白いってキャッチできる、世界共通語なんじゃないかな」と気付きました。そこから世界にはもっと面白い歌があるだろうと思い、もっと知りたいと思いました。
今回私は「ペリキト」に参 加させていただきましたが、いい意味で余白のある振り付けで楽しかったです。後半に自由に身体を動かすパートがあり、動く、止める、形を変えるなど、自由に自分たちでアレンジしていけるというのは、子どもたちにとって大事なんです。私自身も子どもたちとあそぶ時、何をしたいか、どうしたいかを聞くようにしています。それにあそび歌というのは、子どもたちと何かをつくりあげていく上でとて もいい例題のように感じました。保育士さんたちにとっても、どうアレンジして子どもたちが踊りやすくなるか、歌いやすくなるかって考える上でもとても重要なプロジェクトなのではないでしょうか。参加させていただけて本当に嬉しかったです。
ホナガ:大人があれこれ考えても、子どもの想像力や突拍子のなさに驚かされることも多いです。それに自分が踊りにくいところがあったら、勝手にアレンジしたりして自由に踊る子もいれば、一生懸命踊ろうとする子もいたりと、子どもたちによってもとらえ方はそれぞれなんですよね。
小林:こちらから提示したものを、子どもたちがある種のおもちゃとして使ってくれたらいいなと思います。
ホナガ:でも簡単すぎてすぐ踊れてしまうと飽きるし、全部自由にしてしまうとそれはそれで難しいんです。だから流れは作るけれど、その中で自由に踊れるパートもあれば簡単だったり難しいパートもあったり、ここだけは絶対に踊れるというようなそういった緩急も必要なんです。できない部分があってうまく身体が動かなくても、それをあそんで楽しいと思ってもらいたいですね。
小林:私もやりにくくてもいいと思っています。型通りじゃなくて自分のやりやすいように変えてもいいし、型に挑戦してもいい。「やりにくさ」「もどかしさ」があるのも楽しさの一つなのではないでしょうか。
3日満月:子どもたちの年齢や身体の大きさによって動ける範囲や話せる語彙の多さも違います。だからそれぞれがそれぞれの楽しみ方を見つける、見出す。自分なりの「あそび歌」を見つけることを楽しんでもらいたいと思います。ただ違和感なく頭に入ってくることは重要だと思い、そのあたりは私たちも考えてアレンジしました。
―今後アレンジしたい国や曲などはありますか?
3日満月:アレンジしたいというよりも、カメルーンのバミレケ族の子どもたちのあそびをもっと深く知りたいです。 これは子どもが一人自分から倒れて、それを周りの子どもたちが地面にぶつかる前にキャッチして起き上がらせるあそびです。その倒れ方に色々なバリエーションがあるみたいで、勢いよく倒れたり、倒れる方向を急に変えたり、それに周りの子が反応して助ける。たったそれだけのことだけど、あそびを通じて互いに信頼関係が育まれ、子どもたちの社会ができあがっていくような気がして面白いですよね。地域や種族によってもバリエーションがあり、いろんなあそびや歌があると思うので、調べてみたいですね。
ホナガ:日本語に訳すことが 難しく、原曲の言語の響きの 楽しさが半減することもある と気付きました。あそび歌は言 葉や言語の響きを楽しみ、伝 える役目も果たしています。 でも世界には消えかけている あそび歌もあるはずだから、 それを残していければなと思 います。中でも消滅危機言語 のあそび歌があれば、歌でそ の言語を違う国の中で残して いくのも面白いですよね。あ そび歌の音の響きを感じたり、 ダンスを一緒にやってみたり することで、国の文化や歴史 を知るのも面白いですし、そ の国の言語そのものにも着目 していきたいですね。
小林:私ももっと日本を含めたいろんな国のあそび歌を調べてみたいです。あとは日本の伝統的なあそび歌が海外の子どもたちにどう受け止められ、とらえられるのかということにも興味があります。今はまだなかなか対面して一緒にというのは難しいですが、いろんな国の子どもたちが集まって、一緒にあそび歌で交 流していくような場をつくりたいですね。
―あそび歌を通して皆さんが伝えたいことはなんでしょうか?
ホナガ:「あそび歌」というのはもちろん原曲があるけれども、国や地域によっていろんなバリエーションが存在します。今回私たちは、日本における一つのベーシックラインをつくれたのではないかと思います。ここから子どもも大人も自分たちが踊りやすい、歌いやすい形にアレンジしていってほしいですね。やはりあそび歌なので、歌を通してあそべたら成功なのではないでしょうか。
3日満月:海外のあそび歌が日本に浸透して、日本の曲と思っていることも多いですよね。もしかしたらまだ知られていないけど、日本に馴染むような曲があったり、似たような曲があるかもしれない。
そういう互いの国の音のバリエーションを見つけて、互いに伝え合えるようになったらとてもいいですよね。そのためには私たち自身があそび歌を楽しんでもいきたいと思います。
小林:皆さんのお話を伺っていて、本当に「あそび」っていいなと思いました。あそびが きっかけで出会いが生まれ、 会話が盛り上がる。日本人同士でも地域による違いや、海外の知らないことを知るという新しい知識を得ることもできる。人間って生まれてから勉強をはじめる前に必ずあそぶと思うんです。そこできっと子どもたちそれぞれの土台ができる。そう考えると「あそび」というのは人間が成長していく上でとても重要なファクター。でも「あそび」って子どもだけのものじゃない んですよね。大人になっても楽しめる。そういう素敵なものが詰め込まれているのが「あそび歌」なのかもしれません。改めて私自身も向き合っていきたいものだと思いました。
●プロフィール
ホナガヨウコ
ダンスパフォーマー/振付家。MV、CM、舞台、ライブ、雑誌等、子供向けからファッション系まで幅広い媒体において出演・振付をする。また、映像監督や音楽制作、親子支援や企業研修における身体表現の講師を務める等、その活動は多岐に渡る。代表作にNHK Eテレ「シャキーン!/FANTASY」「ふしぎがいっぱい(小学校5年) /ホナちゃん役」、CM「日本マクドナルド/スイーツトリオフルーチュウデビュー篇「ハーゲンダッツ/バニラエクスペリエンス篇」、MV「菅田将 暉/虹」「ゲスの極み乙女。/だけど僕は」「ゆず/恋、弾けました。」「サカナクション/僕と花」、ライブ「私立恵比寿中学/春の嵐」等。
3日満月 (みっかまんげつ)
権頭真由(アコーディオン/ピアノ/ 歌)、佐藤公哉(ヴァイオリン/パーカッション/歌)によるデュオ。20 11年9月、チェコ共和国プラハの満月を長引かせて結成。不思議な縁で覚えた伝統音楽や、ある場所、ある作品、ある人、ある夢のためのオリジナル曲を演奏する。現在長野県松本市を拠点とし、ビデオアート・映画等のサウンドトラック制作や、美術家、パペット作家等との共演、ダンス公演の生演奏など国内外の様々なアートシーンで活 動している。子どもたちと創る音楽サーカス「音のてらこや」を主宰。
小林よしひさ
1981年、埼玉県生まれ。日本体育大学卒業。2005年〜2019年NHK・Eテレ「おかあさんといっしょ」 体操のお兄さんを歴代最長年間務める。 卒業後も得意な料理や運動能力を活かし、バラエティ番組、CM等で活躍。 子供向けイベント、体操指導など活動の幅を広げる。YouTubeチャンネル「よしお兄さんとあそぼう!」も人気。「第10回イクメンオブザイヤー 2020」芸能部門受賞。