共生共創していく人々の声 篠田麻里子×式町水晶

互いに寄り添える社会にするために

東京2020パラリンピック競技大会を経た今、誰もが暮らしやすい社会をつくるために何ができるのか?
同大会閉会式で美しい音色を奏でた脳性麻痺のポップヴァイオリニスト式町水晶さんと、TEAM BEYONDの一員としてパラスポーツの魅力を伝える活動もされている篠田麻里子さんが語り合いました。

──パラリンピック閉会式の感想をお聞かせください。
篠田:私はテレビで拝見していたのですが、画面越しでも鳥肌が立つぐらい感動しました。
式町:ありがとうございます。
篠田:演奏中はどんな感じだったんですか?
式町:高さ5メートルの台の上で演奏していたんですが、僕が高所恐怖症なのもあって、最初はひどく緊張していたんです。
篠田:5メートルは高いですね!?
式町:でも僕が台に上がる前、会場にいた選手の方々が「ガンバレ!」と手をふって応援してくださって。皆さんの笑顔を見た瞬間、緊張が一気にほぐれたんです。
篠田:素敵ですね。演奏中も選手の方々が見えていましたか?
式町:もうバッチリと!選手もパフォーマーの方も全員が見えていました。
篠田:それは景色も良さそうですね、清々しくて。
式町:幸せな時間でしたね。過酷な勝負を終えて、笑顔で健闘を讃えあう選手の方々の姿に心が癒されました。

パラスポーツの激しい熱

──篠田さんはパラスポーツをご自身でも体験されて、どんな印象を持たれましたか?
篠田:私はTEAM BEYONDの活動を通じて、パラスポーツのイベントに参加させていただくことがあるのですが、初めて間近で見たときは衝撃でした。車いすバスケも車いすラグビーも、すごく熱気と迫力があるんです。
さらに自分も体験させていただいたら、車椅子を漕ぐだけでもう難しくて、それまでテレビで見ていたイメージが一変しました。選手の皆さんはプラスの思考やパワーがすごいので、お会いするといつも刺激を受けて帰るんです。
式町:皆さんのパワー、すごいですよね!競技用の車椅子はサイズも大きく重たいです。僕もこれまで色々なパラスポーツを体験させていただいたんですが、車椅子同士が衝突すると首にとてつもない負担がかかります。車道で車と正面衝突するような衝撃じゃないかって思うくらい。
篠田:選手の方々は、それぐらい命がけで試合に臨んでいらっしゃるんですよね。

命がけで挑む選手たち

──大会中、式町さんは競技をご覧になりましたか?
式町:はい、見ていました。
篠田:どの種目が一番印象的でしたか?
式町:テコンドーです。僕は車椅子生活をやめてから、体を鍛えるためにボクシングと空手にのめりこんだので、格闘技への関心が強いです。
篠田:テコンドーの魅力は何でしょう。私はやったことがないんです。
式町:韓国発祥の競技で基本的に足技が主体なので、回転蹴りなど蹴り技が多いです。パラテコンドーでは手が不自由な選手だと足技だけで戦うので、高度なスピード感や体力や判断力が求められます。手でガードできないから蹴りの受け方を間違うと大変なことになるし、自分の技が失敗して転んでも手をつくことができません。まさに命がけですよね。
篠田:蹴りが来たらどうするんですか?
式町:よけるしかない。
篠田:じゃないと当たっちゃう?
式町:そうです。
篠田:負荷が大きいですね。
式町:負荷もリスクも大きいんです。障がいを持っていると、ベストコンデションを保つために人の何倍も時間がかかります。パラ競技選手の方々は、食事面でもトレーニング面でも、日々とてつもない努力でメンテナンスされていると思います。

大会を経て考える、今後のこと

──東京2020を終えた今、どんなことを感じますか?
篠田:今回の大会がきっかけで、パラスポーツに興味を持った方がたくさんいらっしゃると思うんです。そこから先をどうしていくのかが、今後の課題じゃないかなと思います。
式町:そうですよね。大きなきっかけにはなってきましたよね。
篠田:パラスポーツって体験する場が少ないだけで、実際にやってみたらものすごく魅力がわかります。TEAM BEYONDの活動で小学校にお邪魔すると、車いすバスケなどを体験した子どもたちがパラスポーツの魅力にどんどんハマっていくんです。だから子どもたちが日常で普通に体験できることが重要だなって。
式町:素晴らしいですね。教育カリキュラムにあったらいいなとも思います。
篠田:大人ももちろんそうですが、子どもって純粋にスポーツを楽しみますよね。子どものうちに体験できたらパラスポーツの魅力にたくさん触れられるし、考え方などによる色々な垣根を越えていくきっかけになるかもしれません。
私は自分に子どもが生まれてベビーカーで移動する大変さを知ったので、社会のバリアフリー化がこれからもっと当たり前になったらいいなと思います。

共に寄り添い、理解しあえたら

─式町さんはどう感じていますか?
式町:僕は学生時代に特別支援学級と普通学級のどちらにもいたことがあり、その経験から思うことが二つあるんです。一つは、日本は欧米に比べると、障がいを持つ人と持たない人が交流する機会が圧倒的に少ないこと。もう一つは、障がいや病気を持っていると、そのせいで他の人から避けられてしまう場合があることです。
篠田:例えば、同情されたりとかですか?
式町:はい。でも僕が皆さんにお伝えしたいのは、障がいを持っているから辛いわけではないということなんです。なぜなら僕のように障がいを持っていると、学校の先生や親など周りの人たちが、無茶な行動をする一歩手前で止めて守ってくれたりします。ところが障がいを持っていない方は、「精神的に辛くても頭が痛くても頑張りなさい」と言われることもある。つまり障がいを持っていないからこそ辛い思いをする方もいるんだと、障がいを持っている僕たちは知る必要があります。お互いどちらも大変なんだって理解しあえたとき、本当の意味でバリアフリーになると思うんです。
篠田:お互いの理解、すごく大事なことですね。もちろん当の本人にしかわからないことも多くあるはずですが、理解しようとする姿勢を持つのが大事だと感じます。街でベビーカーを押すときも、ちょっとサポートしてもらえるだけでほっとしたり、幸せな気持ちになります。
式町:わかります。それだけで心があったかくなりますよね。
篠田:誰かが一歩手を差し伸べてくれようとしている、その気持ちだけでも嬉しくて。少し勇気がいることかもしれませんが、その寄り添う感じが。
式町:お互いに歩み寄って、寄り添う感じですね。
篠田:そこから一歩ずつ、社会の変化に繋がっていくんだろうなって。いきなりガラッとは変わらなくても、まず知っていくことが、変わるための近道なのかなと思います。
式町:本当にそうですよね。今日はお話しさせていただけて嬉しかったです、ありがとうございました。
篠田:こちらこそ楽しかったです。ありがとうございました。

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