だれもが自然に出会い交流し 共に楽しめる場に
よく晴れた日曜日の朝、小田原市久野にある障害者福祉事業所『アール・ド・ヴィーヴル(アール)』へ理事長の萩原美由紀(はぎわら みゆき)さんを訪ねた。その日はアートワークショップの開催日。アトリエの窓から差し込む日差しが、参加者をやさしく照らしていた。
絵を描きたい、料理やヨガやダンスもやってみたい、という子どもたちの希望が叶う場所がなかった9年前。場所がないなら自分たちで作ろうと立ち上がった萩原さんたちと、障がいがある人の表現活動に長く関わる美術家の中津川浩章(なかつがわ ひろあき)さんが出会い、ワークショップを始めることになった。同時にNPO法人を立ち上げ、アートを中心とする創作活動の場を提供することを目標とした。
毎月2回続けて来たワークショップは、2022年から障がいのあるなしに関わらず参加できる形に変えた。メンバーの兄弟姉妹児や一人で参加する大人もいる。隣の人の絵に目を奪われ、思わず『すごいね』と声があがり会話が生まれる。そんなシーンもしばしばだ。「障がいのある人とない人が自然に出会い、お互いにかっこいいねと言い合える、本当にインクルーシブな場が9年目にして実現しました」と萩原さんの目が微笑む。
アールの作品や活動が人と人を結んでいく
平日のアールは、表現活動を仕事とする障がいのある大人たちの職場だ。メンバーの表現を受け止めて共感し、新しいチャレンジを後押しする中津川アートディレクターのもとで、せき止められていた気持ちが溢れ出るように作品が生み出されてきた。作品を用いたステーショナリーなどのグッズが生まれ、作品をモチーフとしたオーダーメイドの名刺をつくる「つながるカード」プロジェクトは1000件を超えた。
貸し出される作品もある。作品づくりだけでなく、商品の準備や配達や設営などの仕事でもメンバーは社会と繋がっている。
2021年にオープンした久野の事業所には、みんなの夢だったギャラリーカフェを併設した。天井が高くて明るい空間で、色とりどりの作品が迎えてくれる、だれもが開放的な気持ちになる場所だ。材料にこだわったおいしいお菓子は、カフェ勤務を希望するメンバーと支援スタッフの手作り。接客担当は笑顔とホスピタリティでゲストを和ませ、ゆったりとした時間が流れる。
ひとつひとつの作品が放つ魅力に引き込まれて見つめていると、隣のアトリエで創作していた作者がふらっと登場し、あたたかな対話が生まれることもある。それぞれのペースで働くメンバーたちをスタッフが見守り、リスペクトしあって働くカフェは、地域の中で人と人を自然に結んでいく場に育ちつつある。
アールは、事業所内にとどまらず、社会とつながることを目指し続けてきた。その営みのひとつが、設立以来続けてきた作品のリース(貸出し)である。病院、公共施設、一般企業などへの設営や交換はメンバーが担当する。壁に飾られた作品の感想を聞くことや、何気ない会話、その体験の喜びが、次の一歩へのモチベーションとなり、障がいへの真の理解に結びついていく。
「障害者福祉施設同士も情報共有して、みんなで活躍の場を広げていきたい。私たちも全国の先輩施設からたくさん教わって、ここまできましたから」。
支援してもらうばかりの存在ではなく、彼らにこそ求められる役割がある社会へ。ともに生きる社会に向けて、萩原さんの信念は揺るがない。
アール・ド・ヴィーヴル
アートを中心とする創作活動の場を提供するNPO法人として2013年に設立。2021年より多機能型事業所アール・ド・ヴィーヴルをオープン。ひとりひとりの個性を仕事につなげ、収入へと反映させ、「障がいがある人もない人も共に生きる未来」へ向けた事業を行っている。同事業所内はアトリエにもなっていて、アート作品制作や織りものづくり、ヨガ体験や英語教室など、だれもが参加できるワークショップを毎月開催する。
アール・ド・ヴィーヴル
神奈川県小田原市久野403-17
0465-25-4534
http://artdevivre-odawara.jp/
文・牛山惠子
写真・sato-C