アートを通じた多彩な活動を展開する「多文化読み聞かせ隊」
拠点であるコミュニティスペース「末長ふれあいルーム」を訪れた秋の日、「THE アート・プロジェクト多文化読み聞かせ隊」の代表を務める三沢範子さんと副代表の塚本純子さんは、たくさんの絵本に囲まれた明るい空間に温かく迎え入れてくれました。
「THE アート・プロジェクト多文化読み聞かせ隊」は、川崎市高津区を拠点に活動する団体です。「インターナショナルフェスティバルinカワサキ」や「あーすフェスタかながわ」を始めとするイベントに参加し、多文化にまつわる絵本の紹介やワークショップ、多言語での絵本の読み聞かせなどを行っています。
活動がスタートしたのは2011年。2010年の秋から2011年3月に三沢さんが開催していた「川崎市市民自主学級 読み聞かせ隊養成講座」のメンバーとともに結成しました。現在は代表の三沢さん、副代表の塚本さんの他に、ブラジル、ボリビア、ドイツなど多様な国籍を持つメンバーが参加しています。また、その時々で、メンバー以外にも様々な能力や技術がある人達とコラボレーションしながら活動の幅を広げています。
自分を大切にし、相手も大切にする。絵本やアートの力を通して実現したい多文化共生とは
三沢さん自身が多文化に関心を寄せるようになったひとつのきっかけは、子育ての時期をオランダとアメリカで過ごしたことでした。世界中から人が集まる都市で、多様な文化的背景を持つ人々との交流があり、帰国後には、外国にルーツがある子どもたちに日本語や勉強を教える活動を始めました。そのなかで忘れられない言葉があると話します。
「小学校の4、5年生ぐらいのスペイン語圏出身の女の子が将来コンピューターに関わる仕事をしたいと言うんです。彼女は日本語が得意ではないから、学校の授業についていけず、算数も全然できないし、字もほとんど書けなかった。『じゃあ頑張って勉強しようね』と声をかけたら、『私バカだから』と言うんです。それを聞いたときにショックで。そんな風に思い込んで大きくなってしまう子どもたちがたくさんいるんだと気付かされました」。この子のために何ができるだろう、と考えた三沢さん。「スペイン語の絵本を読んで、私にスペイン語を教えてほしい」と伝えます。「絵本だったら割とシンプルなスペイン語だから読めるかなって。そうしたら彼女の態度がガラッと変わって、意気揚々と『あのね、じゃあここを読んでみて』と私に言うんです」。そのときに、自信を取り戻した女の子の輝く姿を見たことが、異なる文化の架け橋として絵本の読み聞かせ活動を始めるきっかけになりました。
「人が生きていくためには、自分自身への尊厳と、自分の言葉を持って生きていくことが大事だなと思っているんです。言葉を持つことが、自分自身を生かしていくことにもつながっていくので。さらに自分を大事にするということは、相手も大事にするということ。それが本来の意味の多文化共生だろうなと思っています」。
読み聞かせ隊の活動に加え、バレエの先生や様々なイベントの企画など、三沢さんの活動は多彩です。以前拠点にしていたスペースの近くに養護学校(現在は特別支援学校)があったご縁から、2016年より、障がいのある若者たちを中心に、お芝居やダンスのワークショップを行う「つながり隊」の活動を開始。2022年は、パントマイムやダンスを取り入れた演劇『しらゆきひめ』を上演し、好評のうちに幕を閉じました。
私たちが訪れたこの日も、養護学校出身のひとりの青年がコミュニティスペースで過ごしていました。ノートに詩を書き溜めていて、作品はすでに1000以上もあるそうです。青年に朗読をリクエストすると、たくさんの作品の中からお気に入りの詩を聞かせてくれました。
読み聞かせ、演劇、ダンス、居場所づくりと様々な活動を展開する三沢さんは「色々なことをやっているように見えると思うのですが、根っこの部分ではひとつなんです」と笑顔を見せます。「外国につながりのあることのほかにも、障がいのある人や生きづらさを抱える人など、様々な背景を『多文化』と捉えています。これからも多様な人たちと地域社会の中で共生していくことを目指していきたいです」。
THEアート・プロジェクト 多文化読み聞かせ隊
2023年5月に、これまで拠点としてきた川崎市高津区梶ヶ谷のコミュニティカフェ「カフェイズミ」か同区の末長にある「末長市営住宅コミュニティスペース」へと移転。毎週火曜日と金曜日に、地域の方が絵本を読んだり、おしゃべりをしたり、くつろげる場所を提供している。
神奈川県川崎市高津区末長2-15-3
末長市営住宅3号棟1階 コミュニティスペース
https://theartproject.jp