壁を取り払うことで、人と人は混じり合う

春日台(かすがだい)センターセンター正面広場での集合写真。施設利用の高齢者から職員まで、総勢40名が写っている。高齢者の皆さんは敬老の日のギフトを手に、職員の方は両手を前に出してポーズをとっている。

撮影:加藤甫

多世代が共に暮らす地域の拠点「春日台センターセンター」

 
どこか懐かしさを感じる商店街を抜けると、木造の庇が長く伸びた、横に長い建物が現れました。大きなガラス張りの窓からは建物の中央にある高齢者福祉施設の様子を覗くことができます。イベントを開催していた敬老の日、施設の一角にある小上がりを舞台に、日本舞踊が披露されていました。観客は赤ちゃんや小学生、その親御さんたちまで。施設の利用者とご家族が、職員の方々と一緒に舞台を囲み、演者へ声援を送ります。

高齢者介護施設内の小上がりを舞台に、白い着物をまとった職員が日本舞踊を披露している。舞台を取り囲むように椅子が並べられ、高齢者の皆さんが見入っている様子。
(日本舞踊を披露しているのは施設職員の方)

その隣、高齢者施設の角にあるコロッケスタンドでは、エプロンと帽子を身に着けた人たちが生き生きと働いています。コロッケを買いに、次々とお客さんが訪れていました。土間を挟んだ向かいにあるコインランドリーでは、洗濯が終わるまでの間、室内のイスに座って親子がコロッケを頬張りながら談笑しています。

建物の外に目を向けてみると、高齢者施設の目の前にあるスロープでは、少年たちがスケートボードに興じています。軒下にある縁側にも、少年たちが腰かけ、思い思いに過ごしています。

愛甲郡愛川町にある複合型福祉施設「春日台センターセンター」。この場所には、施設を利用する高齢者や障がいのある方、子ども、そして散歩に訪れた地域の人たちが垣根なく混じり合う風景があります。

車いすに座るおじいさんと3人の職員が、向かい合うようにして縁側で過ごしている。敬老の日のギフトを手にしたまま眠たそうにするおじいさんを、職員が写真に収めようとしている。
(右後方がセンター長の平本裕子さん)

ガラス張りの施設の中が、働く人たちのステージ

 
「春日台センターセンター」は、2022年にオープンした、障がいのある方の就労支援や高齢者の介護など7つの機能を持つ地域共生文化拠点です。住宅地の中核として機能していたスーパーマーケット「春日台センター」の跡地に建設され、誰もが気軽に立ち寄れるコミュニティの中心=センターにしていこうとの思いからこの名前がつけられました。
3つの棟に分かれた2階建ての施設内には、認知症グループホーム、小規模多機能居宅介護施設、障がい者就労支援施設(A型:洗濯代行)(B型:コロッケスタンド)、放課後等デイサービス、寺子屋、コインランドリー、コモンズルームがあります。
施設の計画に際して、地域で活動する多様な人が語り合う場として「あいかわ暮らすラボ」が立ち上がりました。地域に暮らす人々の間に関係性が育まれ、対話の中から生まれてきた地域のニーズが、施設の持つ機能として形になっています。

よせ木細工調の壁が特徴的なコモンズルームでの一枚。笑顔で取材に応える馬場さんが写っている。黒ぶちのメガネ、黒のTシャツ、黒の時計を着用している。
(愛川舜寿会・理事長の馬場拓也さん)

春日台センターセンターを運営する、愛川舜寿会・理事長の馬場拓也さんは、「ここにあるものは家内労働の集合体なんです」と言います。「これまで女性が担ってきた介護、洗濯、炊事などの家内労働が、女性の社会参画によって家庭で担いきれなくなってきた。その課題解決が施設の機能でもあるんです」。
課題解決を担う施設が人々にとって居心地の良い場所となるために、建築には工夫が凝らされています。暑い日差しや雨から守ってくれる大きな庇、その下には、縁側やベンチなど腰掛けられる場所がたくさんあり、どこにいてもくつろぐことができます。また横長の建物を貫くようにある2本の通り土間は、住宅地の路地から続くように設けられ、街とつながっています。

更に特徴的なのは壁のほとんどがガラス張りになっていること。高齢者施設の利用者や職員、就労支援施設で働く人々の姿も外から見えるようになっています。「施設の中で何か問題が起こるのは、人の目がないとき。ガラス張りの壁によって、働いている姿を窓の外から地域の人たちが目にするようになり、施設の中はさながら舞台のようになります。これまで影の仕事だった福祉の仕事に光があたり、人の目があることで、職員たちの成長も促すと考えています」。(馬場さん)

コロッケスタンドと洗濯文化研究所が並ぶ一角の写真。コロッケスタンドの前には立て看板や大きなソフトクリームのディスプレイが置かれている。一方、洗濯文化研究所の前には縁側があり、コロッケスタンドで注文できるドリンクを飲みながら、くつろいでいる人がいる。

福祉施設の利用者ではない人にとっても立ち寄りやすいのが、コロッケスタンドとランドリー、そしてコモンズルームです。この日もたくさんの人がコロッケのテイクアウトを利用。ランドリーの2階にあるコモンズルームでは、勉強をする人や、フリーwifiを利用して、パソコンで仕事をする人の姿が見られました。

就労支援施設で働いている方の中には、「お母さんに働いている姿を見てほしいから」と、他の施設から移って来た方もいるそう。「高齢者の方たちも障がいのある方たちも、本来地域で当たり前にみんなと暮らせるはずの人たちなんですよね。そういう人たちの顔が見えるようになりました」とセンター長の平本裕子さん。「施設にいるとどうしても『ありがとう』と言われるより言うことのほうが多くなってしまうけれど、お店をやっていると『ありがとう』『美味しかったよ』と言ってもらえる。それも嬉しいようです」と微笑みます。

壁を取り払い、お互いの姿を見えるようにすることで、年齢や特性を超えて人と人は混じり合う。多様な人が共に生きる社会へのヒントが、ここにあります。

春日台センターセンター
神奈川県愛甲郡愛川町春日台3丁目6-38
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