子どもたちの挑戦を可能にする場づくり

青空の下、studio oowaの斜向かいにある公園で撮影された集合写真。「えんげきのがっこう」に参加していた子どもや大人たち11名が写っている。中央には「oowa」と書かれた旗を高く挙げる男の子が屈んでいる。他の子どもたちも、ほうきやバケツ、手作りの楽器、本物のギターなど、それぞれのアイテムを手にポーズをとっている。加藤さんは一番右手で、カメラの紐を肩にかけて、子どもを抱きかかえ笑顔を向けている。撮影:川島彩水(かわしまあやみ)

アーティストとの協働プロジェクト「えんげきのがっこう」

 
「こんにちは!」ガラスの扉を開けて、続々と子どもたちが入ってきます。ここは横浜市にあるstudio oowa。今日は「えんがきのがっこう」の月に1度の活動日です。「ちんどん屋さん」をテーマに、楽器や衣装を作ります。

友達とじゃれ合っていた子は、長い筒を見つけると、口をつけてブォーっと鳴らして遊び始めました。折り紙やマスキングテープを使って衣装を完成させた子は、今度は旗に絵を描きます。引き出しから慣れた手つきでポラロイドカメラを取り出した子は、みんなの様子を撮影して回ります。向こうでは「おうちをつくりたい!」の声とともに、ダンボールで家づくりが始まりました。

あちこちから「パパー!」と呼ばれるのは、スタジオを主宰する写真家の加藤甫(かとうはじめ)さん。「共生共創通信」のカメラマンでもあります。興味を持ちそうなものをそっと手渡したり、自ら箱を叩いて見せたりしながら、子どもたちに寄り添います。

やがて、それぞれが作った楽器や衣装を身につけて、スタジオの斜向かいにある公園へ出かけました。階段の上の広場をステージに見立てると、本物のギターとほうきを用いたエアギター、そしてボーカルによる即興バンドのできあがり。青空に「oowa」の旗が大きくあがりました。

「えんげきのがっこう」で、子どもたちを両脇に抱きかかえる加藤さんの写真。

オリジナルの言葉や概念を尊重する

 
studio oowaは、横浜市西区にある写真家の加藤甫さんが主宰するスタジオです。ダウン症の子をもつ親の会、ヨガ教室のほか、特別支援学校の先生による「特別支援教材をつくる会」や、造形教室、「えんげきのがっこう」などを企画し、知的障がいのある子どもたちとアーティストとの協働プロジェクトや居場所づくりなどを行っています。

スタジオの名前「oowa」は、加藤さんのダウン症の長男、朔くんが発したオリジナルの言葉が由来。「おーわ、は大きいとかたくさんという意味に変換できる言葉だと思うんです。本来は、おーわだと通用しないから、それは大きいだよ、と教えてあげるかもしれない。でもここでは、違っていてもいい。社会が認識できない言葉や概念を、そのまま尊重したいと思っています」。(加藤さん)

スタジオは公園の前で、小学校の隣にあります。特別支援学校に進んだために近所の子どもたちとの接点が減ってしまった朔くんに友だちができたらという思いや、公園へすぐに遊びに行けるという理由から、この場所を選んだそう。

取材当日「えんげきのがっこう」の様子。子どもと大人あわせて13名が、思い思いに楽器や衣装を作っている。左手には、ポラロイドカメラを手にレンズをこちらに向けている子どもがいる。

開催されていた「えんげきのがっこう」は、以前から加藤さんと知り合いだった演出家の萩原雄太さんと協働で行うプロジェクトです。2024年8月からはじまり、主にoowaに普段から出入りしている、幼児から小学生の子どもたちが参加しています。

名前には「えんげき」と付いていますが、必ずしも「お芝居をする」ことや、劇として発表することを目的にはしていません。この日も「楽器と衣装を作ってちんどん屋さんをする」というテーマはありましたが、それぞれのやりたいことを尊重しながらいろんなことが一つの場で起きていました。「活動と子どもたちの相性もあるし、理解するのに時間がかかることもあるから、長い目で見ています。一番大事なのは、子どもたちが萩原さんというアーティストに出会うこと。社会の規範よりも自身の美学や哲学を重んじるアーティストは、様々な『こだわり』を持つ子どもたちのよき理解者になってくれるのではないかと期待しています」。(加藤さん)

また、ワークショップの時間だけではなく、その前後の時間も大切にしています。この日も、プログラムの後に子どもたちが買い物に行くのを、加藤さんが後ろからそっと見守る姿がありました。「障がいのある子は、放課後待ち合わせて、子ども同士でどこかに出かけていくことが難しかったりする。その中で、子どもだけで過ごせるのは貴重な時間なんですよね」。oowaで初めて、親から離れて買い物に出かけることができた、という子どももいるそう。一つの大きな家族のように、友達やきょうだいと共に過ごす時間が、チャレンジを可能にしています。

取材当日、昼ご飯を買いに出かけ、studio oowaに戻る子どもたちの様子。帰り道、3人の子どもが横に並んで歩いている。そのうち2人が買い物袋を一緒に提げている。

oowaは2024年春、横浜トリエンナーレのプログラムの一つとして、横浜市役所のアトリウムに出張。同じく横浜にある、急な坂スタジオとのコラボレーションで、様々なアーティストが子どもたちと交わる企画「アトリウムで待ち合わせ」を実施しました。今後は、こうしたスタジオの外へ向けて活動を展開していくことに加えて、中学生以上の世代の子どもや親たちとつながるなど、コミュニティの幅を広げていくことも検討しているそうです。

横浜トリエンナーレのプログラム「アトリウムで待ち合わせ」の写真。横浜市役所内のガラス張りのアトリウムに芝生が敷き詰められている。くつろぐ子どもや大人たちとともに、アコーディオンや鍵盤楽器を持ったアーティスト、サングラスをかけたパフォーマーの姿も見てとれる。
撮影:廣田陸

急な坂スタジオ×Studio oowa「アトリウムで待ち合わせ」

「子どもたちはあっという間に大きくなるので、中学校やその先の働くことを見据えて、親も勉強していかないといけないなと思っています」と加藤さん。障がいのある子ども本人だけでなく、特有の悩みを抱えるそのきょうだいや親がつながるための場でもあるoowa。子どもたちの成長と共に、場も育っていきます。

studio oowa
横浜市西区中央2-46-21 万代ビル1F
https://www.instagram.com/studio_oowa/
助成:横浜市地域文化サポート事業・ヨコハマアートサイト2024

「oowa」と書かれた手作りの旗が青空に高くあがっている。