踊りとともに生きてきた 72歳、動画コンテストへの挑戦

精神に障がいを持ちながら長年にわたり舞踊創作に打ち込む岡村茂さん。
周囲のサポートを得て、コロナ禍での新たな挑戦、動画製作にチャレンジする岡村さんに取材しました。

岡村茂さんという舞踊家がいる。72歳。精神に障がいを持ちながら、横浜市南区のグループホームに暮らし、日中活動施設に通っている。その傍ら歌謡曲を聴き込み、振り付けを考え自ら踊る。普段はお洒落なシニア男性だが、時に女装して舞台に立つ。以前は横浜市保土ケ谷区の施設で暮らしていた。通所先である旭区内の事業所が出し物を競うD―1(ディーワン)グランプリ(旭区地域自立支援協議会・旭区主催)で優勝経験を持ち、2021年の第10回記念大会では歴代の勝者の中からグランドチャンピオンに輝いた。

その岡村さんが今、動画コンテストに挑んでいる。新型コロナウイルスの影響で事業所での催しが難しく発表の機会が無い。そこで、ネットで募集していた「R65全国どきTuberコンテスト(株式会社ソーシャルサービス主催)」への挑戦を決意した。2021年末より公開された動画には、ステージで収録された踊りと岡村さんの語りが入っている。さらに取材をすると、岡村さんが踊りに目覚め、打ち込む半生が見えてきた。

岡村さんは1949年に山口県に生まれた。中学を卒業して左官見習いを始め、成人して横浜に転居、メッキ工として働いた。同僚たちとの宴会中、先輩のリクエストに応えて咄嗟にその場の座布団を赤ん坊に見立てて踊った『浪曲子守唄』が創作のきっかけだった。

20代後半で岡村さんは不眠になり、精神に不調をきたして入退院を繰り返すようになる。長期に及ぶもので、32歳からの入院は約30年に及んだが、その中で現在の創作スタイルが確立されていった。発表の場は院内のレクリエーション。自分が踊るだけでなく、何人かの振り付けも手掛けたという。ご本人があっという間だったと語る30年が過ぎ、60代になった岡村さんは、当時入院していた病院のケースワーカーだった蒔田宏子さんの強い勧めで一念発起、退院して現在の暮らし、グループホームと事業所の行き来を始めた。

普段の岡村茂さん(右)と退院を強く後押しした蒔田宏子さん(左)

退院当初は、横浜市保土ケ谷区の「パイオニアハイツ」で暮らし、歩いて通える「地域活動支援センター むくどりの家(特定非営利活動法人 木々の会)」に通った。そこで、初めは一人の利用者だった岡村さんが徐々に「踊り手」としての才能を発揮する。通常、事業所では年に何度かイベントや旅行がある。皆さんが楽しみにするのが旅先での宴会だ。その余興として岡村さんは踊った。以来、職員の皆さんは岡村さんの創作を応援しようと、ともに衣装やメイクに工夫を凝らすようになった。時には同じ施設に通う仲間に相手役をお願いすることもある。皆が岡村さんの踊りを楽しみ、協力するようになった。パイオニアハイツの部屋は広く、岡村さんはここで練習に励み、地域のケアプラザや高齢者施設への出張に行ったことも。

岡村さんの創作はオリジナルだが、あえて既存の踊りに例えれば日本舞踊の「新舞踊」に近い。むくどりの家職員の内田由里子さんによれば、岡村さんは仲間や職員と一緒に大衆演劇の劇場「三吉演芸場」やコンテンポラリーダンスの公演に赴き、踊りの研究を行っていたこともあるという。D―1グランプリでは岡村さんの芸に涙を流す観客もいて、先の第10回記念大会では観る人の投票に加え、審査員であるアサダワタル(文化活動家)、佐々木誠(映画監督)、徳永京子(演劇ジャーナリスト)の各氏が揃って一位に選出し、優勝した。岡村さんを支えようと、職員の皆さんは旭区公会堂ステージの照明操作を学んだ。

横浜市旭区での活躍を支えてきた「むくどりの家」の内田由里子さん

2019年以降、グループホームの引っ越しにより、岡村さんは寝起きする場を横浜市南区「はなもも(社会福祉法人恵友会)」に移し、同法人が運営する就労継続支援B型「サザン・ワーク」で働いている。文房具製品の仕上げや清掃、お菓子づくりなどを行う施設だ。ここでも職員の皆さんによる踊りへの支援は引き継がれている。「はなもも」を運営する佐久間健二さんは常にイヤホンを手放さない岡村さんを見守り、吉田正惠さんは街で衣装に向いた服を見つけると、一緒に買い物に出かける。コンテストのために動画撮影が行われた「県立かながわアートホール」には、岡村さんの踊りを共に創り、応援するため、新旧の施設からスタッフが駆けつけた。

岡村さんが暮らす「はなもも」を運営する佐久間健二さん

現在の岡村さんが通う「サザン・ワーク」の中澤宰さん

普段は手先が震えることもある岡村さんが、踊り始めるとピタリとその震えを止める。岡村さんの没頭が周囲を、観る人を巻き込む。撮影は何テイクにも及んだが、間を空けず「もう一度!」と繰り返す。その度に動きは大きさを増し、岡村さんの心と体が開放されていくのが分かる。広い客席からは、精一杯の拍手とエールが舞台上の岡村さんに送られた。

現在、岡村さんは一次選考を通過して入賞、二次選考の結果を待っている。賞の内容以上に、「動画コンテスト」というチャンスが岡村さんの意欲を駆り立てている。サザン・ワーク職員の中澤宰さんは「コロナが収束したら施設の行事での発表を再開し、岡村さんを盛り上げていきたい」と語る。「80歳まで頑張りたい。足腰が弱くなったら『岸壁の母』をやろうかな」と岡村さん。時に冗談を混じえながら創作について語る岡村さんは饒舌、はつらつとしている。人生100歳時代。岡村さんのさらなる表現にも夢はふくらむ。

 

その後、岡村さんの10位以内入賞は成りませんでしたが、動画はまだアップされています。ご覧になってください。

↓こちらからご覧いただけます

R65全国どきTuberコンテスト(https://dokitube.jp/)で検索

↓「入賞作品」へ
https://dokituber.jp/gallery/1225butouka/

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